どれか1冊だけ本の結末を変えられるなら、どの作品にする?
どれか1冊だけ本の結末を変えられるなら、私は『走れメロス』の結末を変えたい
「どれか1冊だけ本の結末を変えられるなら、どの作品にするか」と問われたら、私は太宰治の名作である 走れメロス を選ぶ。そして変えたいのは、メロスが友情を証明して終わる現在の結末ではなく、「人間は本当に他人を信じることができるのか」という問いを、より現実的な形で描く結末である。
もちろん、現在の『走れメロス』の結末が悪いというわけではない。むしろ日本文学の中でも屈指の感動的なラストだと思う。メロスは親友セリヌンティウスとの約束を守るため命がけで走り、最後には王までもがその友情に心を動かされる。この結末は、「人を信じることの尊さ」を読者に強く訴えかける。しかし私は大人になるにつれて、「現実の世界は本当にそこまで美しいだろうか」と考えるようになった。
現実社会では、約束が守られないこともある。信頼していた相手に裏切られることもある。どれほど努力しても報われない場面もある。だからこそ、『走れメロス』の結末を変えるとしたら、私はメロスが間に合わず、セリヌンティウスが処刑されてしまう結末にしたい。
一見すると救いのない悲劇のように見える。しかし、この結末には別の価値があると思う。
例えば、メロスは川の氾濫や山賊の襲撃を乗り越え、命を削りながら走り続ける。それでも間に合わない。王は約束通りセリヌンティウスを処刑する。メロスが到着したときにはすべてが終わっている。そしてメロスは絶望する。自分は約束を守ろうとしたのに守れなかった。親友を救うことができなかった。
しかし、そのとき村人たちは真実を知る。
メロスは逃げたのではなかった。最後の最後まで親友のために走っていたのだ。
セリヌンティウスもまた、メロスが必ず戻ると信じ続けていた。
結果として二人は再会できなかった。それでも二人の友情は偽物ではなかった。
私は、この結末のほうがむしろ人間らしいと思う。
世の中には努力しても失敗することがある。誠実に生きても報われないことがある。しかし、それは努力や誠実さの価値を否定するものではない。結果が伴わなかったとしても、その行動そのものに意味がある。
現在の『走れメロス』では、「信じれば報われる」というメッセージが強く描かれている。一方で私が考える新しい結末では、「信じても報われないことはある。それでも信じる価値はある」というメッセージになる。
私はこちらのほうが現代社会に生きる人々の心に響くのではないかと思う。
仕事でも同じである。
一生懸命提案した案件が断られることがある。努力して育てた取引先が離れてしまうこともある。全力で準備した企画が失敗することもある。しかし、その経験は決して無駄ではない。たとえ望んだ結果にならなくても、真剣に向き合った時間や行動は自分自身を成長させる。
だから私は、『走れメロス』の結末を変えることで、「成功したから価値がある」のではなく、「最後まで信念を貫いたから価値がある」という考え方を描きたい。
また、この結末には王の変化も描きたい。
セリヌンティウスを処刑した後、王はメロスが本当に戻ろうとしていた事実を知る。王は初めて自分の過ちに気付く。人間を信じなかった結果、罪のない人を死なせてしまったことを後悔する。
そして王は国の統治方法を改める。
つまり、友情の勝利ではなく、「人間不信の敗北」が描かれるのである。
これによって作品のテーマはさらに深まると思う。
人を信じることは必ずしも成功を保証しない。しかし、人を信じないことは社会そのものを壊してしまう。だからこそ、人は不完全でありながらも他者を信じ続けなければならない。
私は読書の大きな価値の一つは、「もし違う結末だったらどうなっていただろう」と想像することにあると思う。作者が描いた結末はもちろん唯一無二であり、変える必要はない。しかし読者が別の可能性を考えることで、作品への理解はさらに深まる。
『走れメロス』を初めて読んだとき、私は単純に友情の素晴らしさに感動した。しかし大人になった今読むと、人を信じることの難しさや、信じ続ける勇気について考えさせられる。その意味で、この作品は時代を超えて読み継がれる名作なのだと思う。
もし本当に1冊だけ結末を変えられるなら、私は『走れメロス』のラストを悲劇的なものに変えるだろう。しかし、それは作品を否定したいからではない。むしろ、この物語が持つ「信頼」というテーマを、より現実的で深い形で描きたいからである。
成功した友情の物語も美しい。しかし、たとえ結末が悲劇であっても最後まで信じ抜いた友情は、それ以上に尊いのではないだろうか。だから私は、『走れメロス』の結末を変え、「結果ではなく信念に価値がある」という新たなメッセージを持つ物語として読み直してみたいと思う。

















































































